2006年07月31日
◆京葛野の松尾大社と渡来系氏族・秦氏(十一)
◆京葛野の松尾大社と渡来系氏族・秦氏(十一)
◆◇◆山城国葛野郡の松尾大社と渡来系氏族・秦氏、大和国葛城郡の高天彦神社と葛城氏(2)
強大な勢力を誇った葛城氏の故地・葛城地方には、葛木山(金剛山と葛城山を合わせて「葛木山」と呼んだ)が聳え、その裾野には台地状の地形が広々と広がる。
葛木山の最高峰になる金剛山頂の真下には、高天(たかあま)という集落があり、この高天の台地は標高450メートルもあり、大和平野や吉野の山々が見渡せる。
また背後にそびえる二つの山からの伏流水に恵まれ、水田もかなり広がっていた。高天の台地は、『記・紀』神話の高天原だとする伝承が昔からある。
高天の集落の南の外れにある高天彦神社は、参道の両脇に直径2メートルもある杉の老木が立ち並び、いかにも神さびた雰囲気を漂わせている。
この高天彦神社は『延喜式』神名帳に記載された古社の一つで、とりわけ格式の高い名神大社に列せられている(南葛城地方にはこの他にも鴨都波神社・高鴨神社・葛木御歳神社・葛城一言主神社・葛木水分神社・葛木坐火雷神社の七社がある)。
祭神は高天彦神(高皇産霊尊)である。この近くには弥生時代から古墳時代にかけての大集落遺跡・鴨都波遺跡があり、唐古・鍵遺跡(田原本町)と並ぶ大和の代表的な弥生時代の集落遺跡とされてきた。
またこの地には葛城族に服属したという鴨族の祀る神社が点在する。御所市の西の外れには鴨都波神社(下鴨社)があり、この神社は『延喜式』神名帳の「鴨都味波八重事代主命神社」にあたるとされ、祭神は田の神とされる事代主神である。
後に鴨族は全国に散らばったとされ、「鴨」「加茂」「賀茂」などの地名は各地に伝わっている(山城の賀茂神社は八咫烏こと賀茂建角身命が移り住んだと『山城国風土記』は伝える)。
この他にも鴨族ゆかりの神社が二社あり、高鴨神社(上鴨社)と葛木御歳神社(中鴨社)で、あわせて「鴨三社」と呼ばれ、『延喜式』神名帳に記載される名神大社で由緒と格式のある古社である(南葛城地方は特別に格の高い名神大社が集中)。
鳥越憲三郎氏の『神々と天皇の間―大和朝廷成立前夜』(朝日新聞社)によると、弥生時代中期ごろ、御所市南部の金剛山麓の丘陵地に、畑作と狩猟を中心に高天彦神(高皇産霊尊)を祀る葛城族が住んでいたという。
やがてこの葛城族は、御所市北部の肥沃な平地にいた鴨族を服属させて水稲稲作を始め、「葛城王朝」を樹立、後に大和朝廷に成長していったとしている。
そして、発祥の地の高天の台地を遠い記憶ある祖先の神々がいた場所と考え、「高天原」と呼んだとしている(神武天皇が即位した橿原宮は畝傍山の麓でなく御所市柏原の地であるとも、本間の岡は掖上のホホ間丘とも)。
このように、南葛城地方に格式の高い神社が多くあることや大和朝廷前夜に関わる伝承が集中していることなどから「葛城氏の本拠地で、三輪王朝に先行する葛城王朝の発祥地」とした。
たしかに高天の台地や葛城古道は、欠史八代の宮居(葛城王朝の歴代大王の宮居)の伝承なども残されており、神話の里を彷彿とさせる雰囲気を漂わせている。
また、葛城山の東麓には、葛城一言神社がある。一言の願いならば何でもかなえられる神とされる一言神を祭神とする。『記・紀』には、雄略天皇と一言神の伝承を伝えているところから、葛城地方を本拠とする勢力が無視のできない強大な力を持つ存在であったことを窺わせる。
『記・紀』によると、5世紀葛城地方にいた強大な勢力といえば、葛城氏だ。この葛城氏は葛城襲津彦を始祖とし、葛城襲津彦は神功皇后のもとで活躍した伝説の武人・武内宿禰の子とされ、『日本書紀』に新羅を討つために派遣された人物として登場する。
この記事には「沙至比跪を派遣した」とする『百済記』の記事を併載し、葛城襲津彦と沙至比跪は同一人物であることが分かる。このあたりの『日本書紀』の記述は伝説的な要素が強いようだが、葛城襲津彦の実在性が高いようだ(葛城地方の御所市室の前方後円墳・宮山古墳〈全長246メートル〉は葛城襲津彦かその父の武内宿禰の墓ではないかとされ、こうした大王クラスの墳墓から葛城氏の勢力の大きさが分かる)。
葛城氏は大和朝廷の皇后(磐之媛・黒媛・韓媛など)の家と大臣となり、応神紀十四・十六年に加羅から弓月の民=秦氏に近い渡来民を連れてくる(加羅=伽耶連邦を構成する金官国の王族であったとも?)。
スサノヲ(スサノオ)
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