2006年07月27日
◆京葛野の松尾大社と渡来系氏族・秦氏(七)
◆京葛野の松尾大社と渡来系氏族・秦氏(七)
◆◇◆山城国葛野郡の松尾大社と渡来系氏族・秦氏、京都盆地南西部の古社・高御産日神を祀る羽束師神社(2)
羽束師神社で注目されるのは、「羽束師に坐す高御産日神社」とされて高御産日神を社名とすることである。高御産日神とは『古事記』(上巻)に記すいわゆる造化三神の一神である高御産巣日神であり、『日本書紀』では高皇産霊尊と表記する。
『古事記』では別に「高木神」とも称されているが、『古事記』『日本書紀』の神話では高天原における主宰神として強く意識されていた神である。たとえば、『古事記』にあっては、葦原中国の平定や天孫降臨を命ずる神はアマテラス(天照大御神)と高御産巣日神(高木神)であり、『日本書紀』(本文および第四・第六の一書)では高皇産霊尊とされているのだ。
皇祖神としての神格化をみた高御産巣日神にゆかりを持つ社は、『延喜式』においても限られており、他には大和国添上郡の宇奈太理坐高御魂神社、大和国十市郡の目原坐高御魂神社、対馬国下県郡の高御魂神社などといったように少ない。
なぜ乙訓の地域に高御産日神が祭祀されるようになったのか。その間の事情は定かではないが、高御産日神は少なくとも大宝元年四月の勅が出されるまでは、「波都賀志神」として祭祀されており、大和王権と羽束師の地域が早くから深い関わりを持っていたことを示唆する。
『新抄格勅符抄』の大同元年の「牒」には、山城国より神戸(4戸)をあてられている。『延喜式』にみえる宮中36座のなかには御巫(みかんなぎ)の祀る神八座があり、その宮中八神殿の一神がやはり高御産日神である。
『延喜式』巻三十九の内膳司には園神祭十四座があり、そのなかに長岡園三座が見られているのも見逃せない。宮廷との繋がりを持った羽束志(波都賀志)の神が高御産日神を主神とするのには、このような背景があったようだ。
そして『三代実録』の貞観元年(859年)九月八日の条に見出されるように、「風雨を祈る為に」遣使奉幣される風雨の神としても崇められていた。今も残る羽束師の社叢に、僅かだがいにしえの古社の面影を忍ばせるのである。
※参考Hints&Notes(注釈)☆彡:*::*~☆~*:.,。・°・:*:★,。・°☆・。・゜★・。・。☆.・:*:★,。・°☆
(※注1) 羽束師坐高御産日神社(京都市伏見区羽束師志水町)の御祭神は高皇産霊神と神皇産霊神で、雄略天皇二十一年の御鎮座と『羽束師社旧記』は伝えている。
桂川と諸河川の合流するこの地は古くから農耕が行われ、水上交通の要地と相まって羽束郷と称され開けてきた。平安時代には祈雨の神と崇められ、潤雨・風鎮の祭りが行われた。
『延喜式』にあっては大社に列せられ、月次祭・新嘗祭の幣に預かり、中世・近世になっても羽束石祭の賑わいは近郷唯一であったそうだ。二基の神輿渡御は広い地域にわたったと『大乗院寺社雑事記』『都鄙祭事記』は語り伝えている。
豊かな社叢は「羽束師の杜」の名で古来より親しまれ、祭礼行事は羽束師祭(5月中旬、羽束師の舞・こども神輿)、 例祭(10月中旬、舞楽が奉納される。) が行われる。
(※注2) 祭神は高皇産霊神と神皇産霊神は、『記・紀』神話の筆頭に出てくる独り神で、化成霊能の三神のうちの二神である。
この神は、のちの氏族の始祖神になっているが、このような大始祖神を治水の神でもなく穀物の神でもない神として、羽束師のような水害の多い地(桂川の洪水が多発した地)に祀ったところに、羽束師郷の特色がある。
羽束師坐高御産日神社を中心にする羽束師遺跡では、弥生後期から古墳時代の遺構が発見されているから、古代桂川の自然堤防を利用して水と暮らした歴史のある土地であったことが分かる。
(※注3)羽束師神社(伏見区羽束師志水町)は、桂川西方の平地に鎮座する(以前に下鴨神社の神職の方から聞いた、京都で最も古い羽束師神社と大歳神社が気になってた)。
付近は『和名抄』記載の羽束(はつかし)郷の地で、天平勝宝元年(749年)十一月三日付の正倉院文書の奴婢帳に「山背国羽束里」とみえる。
社叢は古くから「羽束師の森」として歌枕にあげられ、延喜十三(913年)の亭子院歌合には「はつかしの森の僅かに見しものをなど夏草の繁き思いぞ」と詠われている。現在も境内には樟の大木などが繁り、昔を偲ばせるが、社殿は衰微して盛時の面影はない。
スサノヲ(スサノオ)
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